国内盤のベストセレクションやオムニバスなんて,素人が買うもんだと思っているクラシックファンの方.ところが意外とマニアックなものがうずもれているんですよ.今回はオムニバスCD「白夜のアダージェット」をご紹介しましょう. 白夜というタイトルからわかるとおり,北欧の作曲家の曲を集めたCDです.サブタイトルには北欧管弦楽名曲集とありますが,実際は弦楽合奏曲だけが収録されています.1998年に発売されたものですが,2004年にワーナークラシック,NEW BEST 50として再発売となりました.
さて内容ですが,グリーグの2つの悲しい旋律(胸の痛で,過ぎにし春)を除いて,一般には,ほとんど知られていない曲ばかりです.作曲家もシベリウス,ニールセンのほか北欧ファンにはおなじみのスヴェンセン,ラングストレーム,リンドべリ,さらにはカヤヌス,アルヴェーンなどはまだしも,マデトヤ,ボアセン,ブル,クーラにいたっては北欧のクラシック音楽の作曲家リストにも入っていません.このように知名度的にも幅広い作曲家の曲が収録されています.弦楽合奏の美しさを引き出した曲ばかりで,全体を通して北欧の冬をイメージさせる曲調です.(アルバムタイトルと吉松隆さんの解説に感化されている気もしますが)
中でもニールセンの「若き芸術家の棺の傍らで」(アンダンテ・ラメントーソ,FS58),ボヘミア=テンマークの民俗曲(FS130)の2曲は,小組曲(Op.1, FS6, 未収録)と並んで,知られざるニールセンの名曲です.「若き芸術家の棺の傍らで」は自身の葬儀の際にも演奏されたそうです.
ちなみに私のお気に入りは,スヴェンセンの「天の砦の下なるすべて」.とてもメロディアスで,この手の曲に弱いんです.
このCD,再発売でたったの1050円なんです.しかも同じ曲を他で探そうとしても,ほとんど見つからないと思います.今度のCD買出しのときには,このCDも買ってしまいましょう.
WPCS-21216
演奏:オストロボスニア室内管弦楽団 (Ostrobothnian Chamber Orchestra)
指揮:ユハ・カンガス (Juha Kangas)
おなじみビゼーの歌劇「カルメン」ですが,実は弦楽合奏とパーカッションによる編曲があります.ロシアの作曲家シチェドリン(1932-)による「カルメン組曲」です.
オーケストラ・アンサンブル金沢の録音でご存知の方もいるかもしれません.この曲は,彼の妻で伝説のプリマ・ドンナであるマヤ・プリセツカヤのためにバレエ曲として書かれました.
当初,ソビエト当局ににらまれお蔵入りになるところでしたが,ショスタコーヴィチが絶賛し,彼が当局に働きかけ日の目を見たというエピソードもあります.しかもカルメンなのに途中でアルルの女が出てくる始末!
パーカッションが大活躍で,特にカスタネット業界では有名のようです.「カスタネット協奏曲」といってもいいくらいなのかもしれません.この曲を是非やってみたいという方,ひとえにパーカッショニストが見つかるかどうかにかかっています.2004年11月5日(金)の東京フィルの定期にかかるらしいので,実演を聴いてみたい方は行ってみて下さい.(指揮者フェドセーエフ急病のため曲目変更)
話はちょっとずれますが,もしパーカッションが入ったらメンバーなら,メインにカルメン,サブにモーツァルト:セレナータ・ノットルナ(ティンパニあり),アンコールはシベリウス:アンダンテ・フェスティーボ(ad libでティンパニ)っていうプログラムはいかがでしょうか.
さて,シチェドリンはカルメン以外にも弦楽合奏曲を書いていて,今回紹介するCDに全曲世界初録音されたのが1994年に作曲された「ロシア写真集(Russian Photographs)」です. この曲は,アレクシンの古都,モスクワのゴキブリ,スターリン・カクテル,夕べの鐘,の4つの楽章からなり,本人が序文でこれらの楽章は「ロシアの生活のスナップショット」であると書いています.いろんな動物の名前を冠した曲は数多ありますが,「ゴキブリ」の名前のついた曲というのは,他にあるんでしょうか.北海道にはゴキブリは基本的にいませんが,もっと寒いモスクワにゴキブリがいるというのも驚きです.「この曲は,ちょっとユーモアのある弦楽トッカータだ.ゴキブリはモスクワでは大きな悩みの種である.最新の殺虫剤も効かない.人間たちは彼らをまったく無視し,ゴキブリは我が物顔に振舞っている.」とも書かれています.こちらの曲もおすすめです.
最近は,ヴァイオリニストのマキシム・ヴェンゲーロフが彼の曲をよく取り上げているようですね
Claves 502207
指揮:Misha Rachlevsky
演奏:Chamber Orchestra Kremlin
今回は,メジャーレーベルCHANDOSの「DANCES FROM THE HEART OF EUROPE」を紹介します.直訳すれば,「ヨーロッパの心からの舞曲集」とでもなるんでしょうか.スカルコッタス「5つのギリシャ舞曲」,ハイドン「12のドイツ舞曲」,バルトーク「ルーマニア民俗舞曲」,ブラームス「愛の歌」,コミタス「10のアルメニア民俗歌謡と舞曲」が収録されています.
スカルコッタス(1904-1949)は,ギリシャの作曲家でシェーンベルクと交流したり将来を有望視されていましたが,曲が理解されなかったのか留学先のベルリンよりギリシャに戻り,不遇のまま45歳で生涯を閉じました.ギリシャ舞曲は36曲あり(全曲集はBISより, BIS 1333/4 )彼自身さまざまな編成に編曲し,その内,弦楽四重奏版にコントラバスを加えたものが弦楽合奏で使用されています.ブラームスのハンガリー舞曲,ドボルザークのスラブ舞曲,バルトークのルーマニア民俗舞曲に匹敵する作品でしょう.
ハイドン(1732-1809)は,1792年ウィーンの王宮舞踏会のために12のドイツ舞曲とメヌエットを作曲しました.自身によるピアノ編曲が出版された後,小規模の楽団のために2つのヴァイオリンとチェロのための編曲がされたようです.1曲1曲はとても短く,ほとんど1分ありませんが(12曲の演奏時間が8分32秒),とても華麗な舞曲で,弾いてみたいなあと思わせるものばかりです.
このCDの曲の中で,一番有名なバルトーク(1881-1945)のルーマニア民俗舞曲ですが,この曲もオーケストラ版の作曲後,ピアノ版がZoltan Szekelyに,弦楽合奏版がArthur Willnerによって編曲されています.弦楽合奏版の成立として,このパターンは多くありますね.
ブラームス(1833-1897)のオリジナル弦楽合奏曲というのはほとんどありません.ゼクステットや交響曲第1番の第4楽章の弦のみの部分なんかは演奏されますけど,やはり弦楽セレナーデを作曲してほしかったですね.この「愛の歌」はもともと歌曲ですが,この曲もご他聞にもれず,ライプチヒのヴァイオリニスト,Friedrich Hermannによってクインテット版として編曲されています.この曲,以前からリストには載せていたのですが,実はこれまで弦楽合奏の音源は持っていませんでした.ブラームスの数少ない弦楽合奏レパートリーにぜひ加えたい一曲です.
このCDの作曲の中で一番マイナーと思われる,コミタス(1869-1935)はアルメニアの作曲家で,アルメニア音楽の父といわれる人です.彼もまたアルメニアの民俗歌謡,舞曲を収集し合唱やピアノに編曲していました.これらをモスクワのコミタス・カルテットのチェリスト,Sergey Zacharovich Aslamazianがカルテットに編曲したものが,この曲です.このCDの演奏ではさらにパーカッションが激しく加えられており,「民俗」っぽさが更に際立っています.式部(SHIKIBU,篠崎正嗣と大島ミチルで結成されたユニット)のNHKのサントラっぽい感じがしました.個人的には結構気に入ってしまいました.でも楽譜は簡単には手に入らなさそうですね.
このCDは,雑誌でも紹介されたりしたようなのですでに聞いた方も多いかもしれませんが,そうでない方はぜひ聞いてみてください.
CHANDOS CHAN10094
演奏:I Musici de Montreal
チェロ/指揮:Yuki Turovsky
更新がかなり滞っており,すみません.前回は,かなりマニアックな曲の紹介だったので,今回はお得なCDをご紹介します.
弦楽合奏のCDで安いといえば,やはりNAXOSですね.これは以前より紹介していますが,今回ご紹介するのはそれより安い.たったの674円(HMV, 2004年1月現在)!!フィンランディア・レーベルの廉価版シリーズであるAPEXの,4曲をまとめた弦楽作品集です.
シェーンベルクの浄夜,シベリウスのアンダンテフェスティーボ,ショスタコーヴィチの室内交響曲にプッチーニの菊という弦楽合奏の定番曲を含んでいます.演奏はチャバ&ゲーザ・シルヴァイ指揮,ヘルシンキ・ストリングスという地元の合奏団ではありますが,演奏はなかなか良いと思います.(この辺は演奏批評の能力を持ち合わせていないので,文章にできません)
これだけの曲がCD1枚でそろい,しかもこの価格!これらの曲のCDを1曲でも持っていない方はすぐ買いましょう!
弦楽合奏曲やそのCDを紹介する新コーナーをはじめてみました.その名も「弦楽迷盤」,今回はその第1回です.
ポーランドの作曲家といえば,皆さん誰を思い浮かべますか?まずは,もちろんショパンですが,その次となるとなかなかでてこないのではないでしょうか.名前の最後が「キ」で終わる作曲家を思い浮かべましょう.ヴィニヤフスキ,シマノフスキ,ペンデレツキ,さらには現代のルトスワフスキ,グレツキなんかがそうです.が,今回紹介するのは「キ」で終わらないポーランドの作曲家,カルウォーヴィチです.
1876年リトアニアに生まれたカルウォーヴィチは,両親がヴァイオリンの教育を受けさせるためワルシャワに送られました.しかし,そこで作曲の魅力に取り付かれ,ベルリンに向い作曲を学びました.登山家としても知られる彼は故郷のタトラ山を愛しており,そこから作曲のインスピレーションを得ていました.将来を嘱望されていたカルウォーヴィチでしたが,タトラ山でスキーの途中に雪崩に巻きこまれ,33歳で夭折してしまいました.(ポーランド音楽センターのカルウォーヴィチのページはこちら)
今回紹介するのは,1897年,彼が二十歳のときに作曲された「弦楽セレナーデ 作品2」です.この曲は,ベルリンでウルバン教授のもと作曲の勉強しているときに書かれたものです.4つの楽章,マーチ,ロマンス,ワルツ,フィナーレからなります.ドヴォルザークの弦楽セレナーデが書かれたのが1875年,その5年後にチャイコフスキーが弦楽セレナーデを書いていますが,この曲は,その構成から見ても,特にチャイコフスキーの影響を受けているようです.各楽章ともメロディにあふれ,マーチのチャーミングさ,ワルツでの低弦と高弦の掛け合いなど,最初の作品とは思えないほどの完成度で,彼の才能をうかがわせます.
ということで,弦楽合奏愛好家の食指をそそる曲だと思うのですが,マイナー作曲家のマイナー分野の曲だけに,音源はほとんどありません.しかし,今回はそのCDを2枚も!ご紹介しましょう.
LE CHANT DU MONDE(LDC 278 1088)アントニ・ヴィト指揮 クラクフ放送交響楽団1枚目は彼のヴァイオリン協奏曲(Vn:ダンチョフスカ)とカップリングしたCDです.ちなみにこのヴァイオリン協奏曲の録音もほとんどないようです.このCDはおそらく廃盤で,手に入れるのは難しいと思いますが,東京池袋のヴァイオリン曲中心のクラシックCD専門店「MITTENWALD(ミッテンヴァルト)」の貴重盤コーナー(作曲家別)にこの協奏曲が掲載されているようなので,そちらに問い合わせてみると良いかもしれません.
ALBA (ABCD 173) 指揮:Tadeusz Wicherek 演奏:St. Michel Strings実は2枚目のこちらのCDが,この曲を紹介するきっかけとなりました.CDもないような曲を紹介するのは気が引けていたのですが,ついに,この曲の新しいCDがALBAレーベルより発売されたのです.ポーランドの弦楽作品を集めたCDで,カルウォーヴィチのほか,現代のポーランド作曲家の曲が収められています.こちらは,現在容易に手に入るので,今のうちに買ってしまいましょう.
追記:今度CHANDOSより出るカルウォーヴィチのCD(CHAN10171)に,弦楽セレナーデが入っているようです.ワルツのサンプルあり. |