弦楽合奏版あれこれ



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 弦楽合奏曲というのも色々ありまして,はじめから弦楽合奏のために作曲されたもの以外に,弦楽合奏版と称される他の曲を編曲したものがあります.その中には,もともと違う編成だったものを後に他の作曲家,演奏家,もしくは作曲家自身が弦楽合奏用に編曲したものや,現在は違う形で演奏されることが多いが本来は弦楽合奏であったもの,作品の一部が弦楽であるのを抜き出して演奏されるものなどがあります.

 作曲者自身の編曲の例で最も有名なものは,シェーンベルクの「浄夜」です.この曲はもともと弦楽六重奏曲(Vn2,Va 2,Vc 2)として1899年に作曲されましたが,1917年に作者自身の手で弦楽合奏に編曲,さらに1943年改作されています.弦楽合奏のレパートリーとして忘れてはならないグリーグのホルベルク組曲も,1884年ノルウェー文学の父といわれるホルベルクの生誕200年に際しピアノ独奏曲として作曲され,その翌年弦楽合奏に編曲されました.

 もともとは弦楽合奏であったものとしては,モーツァルトのアダージョとフーガがあります.この曲は,1783年に作曲された2台のピアノのためのフーガ(K.426)を,1788年弦楽に編曲,前奏曲としてアダージョを付け加えたものです.弦楽四重奏としても演奏されますが,一部コントラバスパートがあるため本来は弦楽合奏のためのものと考えられます.

 カルテットの弦楽合奏への編曲で忘れてはならないのがマーラーの編曲です.マーラーはシューベルトの弦楽四重奏曲「死と乙女」を弦楽に編曲しハンブルク・オペラで第2楽章アンダンテのみを演奏しました.しかし,それは不評に終わりました.マーラーはそれにもめげずに,1899年ベートーヴェンの弦楽四重奏曲ヘ短調「セリオーソ」を弦楽に編曲しウィーンフィルで演奏しました.しかし,これまた当時の保守的な批評家に大不評であったようです.そして,このようなマーラーの弦楽合奏への熱意が交響曲第5番第4楽章のアダージェットへとつながったといわれています.

 ベートーヴェンの弦楽四重奏は他も弦楽合奏で演奏されておりバーンスタイン指揮/ウィーンフィルによる第14番,16番,クレンペラー指揮/フィルハーモニア管弦楽団による弦楽四重奏のための大フーガなどの録音があります.大フーガはもともと弦楽四重奏曲第13番の終楽章として作曲されましたが,初演時に不釣合いに長すぎると指摘され違うものに差し替えられました.そしてその後,弦楽四重奏のための独立した曲となりました.つい最近,プレヴィン指揮/ウィーンフィルによる弦楽四重奏曲14番がヴェルディの弦楽四重奏曲(トスカニーニ編曲)とのカップリングで出ましたね.(DG 463579-2)

 ヴェルディは1873年,「アイーダ」上演のためにナポリに来ていましたが,プリマドンナが急病となり上演が延期されたため,その暇を埋めるためにこの弦楽四重奏曲を作曲しました.当初は,ヴェルディはこの曲を遊びと考え出版させませんでしたが,後に思い直し日の目を見ました.

 チャイコフスキーは1871年,かの有名なアンダンテ・カンタービレを含む弦楽四重奏曲第1番を作曲しました.そして,その17年後の1888年,チェリストの友人ブランデュコフのためにアンダンテ・カンタービレをチェロと弦楽オーケストラへ編曲しました.また,ノクターンも同様に編曲されていますが,その際両者とも半音高く転調されています.その他に,弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」も弦楽合奏で演奏されています.  ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番は,バルシャイによって弦楽合奏に編曲され室内交響曲と呼ばれています.もともとショスタコーヴィチの交響曲やチェロ協奏曲の主題が登場するこの曲が弦楽合奏となると,まさに交響曲のようです.

 ブルックナーの弦楽五重奏曲もスタットルマイヤーによる編曲があります.ブラームスでは,ヴェーグ指揮の弦楽五重奏曲第2番や,タルミ指揮の弦楽六重奏曲第1番が録音されています.ヴォルフの弦楽四重奏曲「イタリアのセレナーデ」,プッチーニの「菊」も弦楽合奏で演奏されています.メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲はそのままでも弦楽合奏みたいなものですが,もっと大編成の弦楽合奏版もあります.オッフェンバックのセレナーデもシェーンヘルにより,2つのチェロのための二重奏曲から編曲されました.  弦楽合奏への編曲で注目すべきところはやはりコントラバスの扱いでしょう.もともとカルテットなどでコントラバスパートが無い場合が多く,編曲者の腕の見せ所でもあります.コントラバスが加わることで,弦楽合奏版ならではの重厚感が生み出されるのです.また,マーラーは「死と乙女」の編曲で,ミュートの指示により曲に変化をつけたりもしました.

 バッハのゴールドベルク変奏曲の弦楽合奏版というのもあります.ヴァイオリニスト・指揮者であるシトコベツキ編曲によるものです.弦楽三重奏版を1984年に録音(ORFEO 138851)したのに続いて,1993年に弦楽合奏版を編曲し自らコンサートマスター兼指揮者をつとめました.

 カルテットを弦楽合奏でやるなんて邪道だ,なんて思っているあなた.もちろんオリジナルはすばらしいですが弦楽合奏版も捨てたものじゃないですよ.是非聴いてみてください.

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